1つの分野を深く掘り下げるという訓練 ‐ 職業訓練をどこで受けるか

  • 5 November 2014
  • のぶやん

日本の教育の欠点と言えば、1つの分野について深く掘り下げるという訓練がなされていないところだと思われます。大学入試にしても、表面を広く・浅く学習する事が強く求められており、国立大学などになると、センター試験の科目数が非常に多くて、1つの科目を学習する時間が限定されています。結果として、1つの分野を深く掘り下げて学習する事ができないという欠点が生じます。

日本では、戦前に理系教育ばかりを重視して、世界情勢などに疎い人物を大量に排出してしまって、軍国主義に偏った考え方をする幹部兵士の量産に繋がってしまいました。この反省から、広い視点で物事を考える事ができる社会学などの分野が重視されて、数多くの科目を学習する事が求められていくようになります。しかしながら、社会学系3科目(歴史、地理、政治経済)、科学系2科目(物理、化学)を全て選択していると、高校3年間の時間で学習する事は限られてしまいます。

深い学習ができない大学

大学という期間は、高等教育機関として、高校では得られない深い学習を行う事が求められています。しかしながら、最近ではどこも「高校の復習と延長線上の学習」が行われる事が多くて、大学の試験内容と言えば、高校時代の学習に少し付け加えた程度の知識になってしまっています。しかも、

大学で深い学習ができていない場合が多いので、今度は大学院に進学して1つの分野について深く学習しようと言う傾向が見られるようになってきています。しかしながら、大学院の実態は、今度は大学のテスト内容の復習に当てられることが多くなっており、大学院としての機能を果たしていない場合が多くなってきています。試験は大学の繰り返しとなり、論文を書く頃には就職で大忙しで間に合わせの論文を仕上げるといった実態です。

企業が育てる人材

日本においては、人材というものは大学で育てるというよりは、企業が育てるという事が一般的に行われてきました。ある意味では、金を持った大企業などが大量採用を行った後で、企業の中で半年から1年もの間で研修を行わせてきた実態があります。こうした横並びの採用、人員の育成というのは、全体のレベルをあげる事には向いており、企業の中で大学では得られない深い知識を得られた事も事実です。

結果として、日本の企業では、IT部門に対して文系を卒業した人が採用されたり、金融機関に文学部や法学部が採用されたりという事が頻繁に起きていますが、企業研修で知識が磨かれるので、それがほとんど問題にならないという実態がありました。ある意味では、多様性のある様々な背景を持った人材を採用できる一方で、専門家としての能力がどうなのか?という疑問を持ちますが、高度経済成長をしてきた日本で、それが大きな問題になる事はありませんでした。

正社員と非正規社員の問題

日本において、大学で深い教育がされていないという事を考えると、企業における教育が行われる事が深い知識を得る為に不可欠になります。ここで企業における教育が十分に行われた人材でないと、社会においてその分野で使い物にならないという事になります。正社員であったとしても、新卒で入社した会社が中小企業で十分な教育を受けさせて貰えなかったり、大学を卒業してからすぐにフリーターと呼ばれるアルバイトをして生計を立てるような状況になると、深い学習を行うという事が難しくなってしまいます。

結果として、非正規社員というものは、1つの分野において深い学習を行う事が不可能になってしまいますので、企業から得られる賃金というものは、いわゆる「単純作業」というものになってしまって、時給2000円の派遣社員などが精一杯の状況になってしまうという事でしょう。深い分野を学習できないと言う事は、成長を得られる機会というものが限定されるという事でもあり、年齢を重ねたとしても賃金上昇しないという厳しい状況になることを意味しています。高度経済成長期では、誰でも経験を重ねると賃金は上昇したのですが、パソコンが発達した最近の社会で、深い知識を持たない人が賃金が上昇していくという事は考えられません。

キャリア・パスを自分で考える必要性

この記事においては、非正規社員が増えた事を問題だと言うつもりはありません。非正規社員が増えた理由としては、企業が深い知識を持った人材育成を必要としなくなったという背景があるでしょう。グローバル化の時代においては、人材と言うものに汎用性が増しており、結果として「必要な時に必要な人材を確保する」事が重要になってきています。言い換えれば、深い知識を持った人材を必要なプロジェクトで外部から調達すれば良いという事になります。企業の内部には、ある程度のコアチームがいれば良くて、その他の人材は外部から1年契約などで獲得すれば良いという話になるでしょう。

高い能力を持った人材であれば、「個別の契約」として、非常に高い金額で企業と契約する事ができますが、高い能力がない人材であれば、その辺のアルバイトしかできないという事になってきます。グローバル化と機械化された現代社会において、そうした格差がどんどん拡大してきているので、自分のキャリア・パスというものを個人が良く考えないと、40代以降に大変に苦労する事になるという事でもあります。

1つの分野を極めるとは何か

岡本太郎美術館に行った時に感じたのは、確かに岡本太郎の描く絵というものは、他の画家と「違い」があり、非常に力強さを感じる事ができるという事です。岡本太郎氏は、ピカソから多大な影響を受けており、ピカソを師として仰いでいます。ピカソは、人生の中で膨大な絵を描いていますが、いずれの作品も非常に高い価値を持つものとなっています。そのピカソの芸術というものは、一般の人から見ると非常に分かりづらいものであり、しかしながらピカソはそれを描き続ける事で、世の中に認められた作家でもあります。

人生における創造力の発揮というものは、自分の得意分野を見つけて、それを拡張しながら世の中の変化に合わせて(人々の需要にあわせて)、変化を続けていくという事であると感じます。時代がその人を必要とすれば、いわゆる「波に乗れた」と言う状況になりますし、時代がその人を必要としない事もあるでしょう。

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