東芝の粉飾決算に見る2006年米ウェスチングハウス(WH)社買収の失敗
東芝が今になって粉飾決算が明らかになったのは、粉飾決算を隠し切れないだけの損失を抱えて、もはやどうにもならなくなったという事情があるでしょう。それまでは、リーマンショックを言い訳にして、2009年5月の取締役会で3174億円の公募増資と1800億円の劣後債発行を決めるなど、大規模な資金調達を行うなどして粉飾決算で誤魔化してきました。
2006年米WH社を買収した大失敗
リーマンショックが発生する2006年頃は、世界的に非常に景気が良いとされていた時期であり、株価が大きく値上がりしていた時期でもありました。日本企業の業績がどこも好調に推移しており、株価も堅調に推移していたのです。そんな中で東芝は、原発を更に推進していくという国策との兼ね合いもあって、米WH社を買収する事になりました。国と密接な繋がりがある三菱重工に対抗しようしたとも見られています。最初に77%の株式を42億ドル(約5000億円)で買い取って、後から更に買いまして、合計で54億ドル(約6400億円)を費やしてWH社を買い取りました。
このWH社が東芝の傘下になって事実上「世界で最大規模の原発メーカー」となった東芝でしたが、時代は原発を必要としなくなっており、新規受注が1件も入らない状況になっていました。新規受注が入らない状況では、会社を持っていても何の役にも立たず、損失だけが膨らんでいくことになりました。そして、2011年3月11日に東日本大震災が起こって、海外で原発の新規受注どころか、国内において原発を作る事さえ不可能な状況になりました。
東芝は、利益が出ないばかりではなくて、売却するにもどこにも売れないような最悪の企業を買収してしまったのです。
こういった最悪の買収をしてしまった背景には、経営者の判断能力がゼロだったという事があります。原発を発展途上国に輸出する事ができれば巨額の利益が見込めると考えて、原発事業者を巨額の資金で買い入れるという経営判断の失敗があった事は明らかでしょう。こうした買収の背景には、本業の1つとしてきた家電事業が中国・韓国などの競争にさらされて、全く利益が出なくなったという事があるでしょう。その為に家電業界の中でも東芝が得意としている重工業寄りの原発事業にかけたという経営判断となっていったのかと考えられます。
追加出資をした佐々木社長の責任問題
2006年にWH社の77%の株式を42億ドル(約5000億円)で買ったのまでは良かったのですが、5年前の専務時代に自らWH買収を手がけた東芝の佐々木則夫社長は、あろうことにほぼ全株式を手に入れる為に更に12億ドル(1400億円)を追加出資して、WH社の株式をほぼ全部手中に収める事になります。既に古くなって老朽化したような原発の技術に対して、これだけ多額の資金をつぎ込んで買い取るというのは、東芝が粉飾決算をする為にWH社の完全なコントロール権を必要としたのではないかと考えられます。
米国では長らく名門重電メーカーだったWH社は、90年代には既に技術が陳腐化して傾いており、解体バラバラセールで主要部門を売られた形になっていました。原子力部門がWH社の名前を引き継いだ形で継続していますが、三菱重工業は、2000億円が相場で、高くても3000億円と言われた金額を提示しており、既に傾いて陳腐化した技術に対する評価としてはそんなものでした。東芝は、海外からの受注で三菱重工に勝ちたいが為にWH社を買収する事で自らを大きく見せたかった狙いがあるものと思われます。
2011年福島原発事故で原発の新規受注が完全ゼロ
東芝が70年代から三菱重工と2社で日本国内に立て続けに54基もの原発を作ってきて、美味しいビジネスだった訳ですけど、日本国内では脱原発運動の盛り上がり、電力の過剰供給などもあって、原発の国内外の受注が完全にゼロになってしまいます。こうなってくると、原発技術を持つ東芝としても、その技術が何の役にも立たないままに老朽化していく事を意味しています。2006年に買収したWH社が持っている「もともと古かった技術」でさえ、今では更に古いものになって使い物にならなくなっているのです。
2006年には、WH社には2000億円と言わずとも、1500億円ぐらいの資産価値はあったかもしれません。しかしながら、そこから10年を経たWH社の持っている資産価値というのは、ほぼゼロであるか、下手をするとマイナスになっている可能性さえあると言われています。何といっても、「原発を30基も受注して売り上げ1兆円目指す」と叫んでいた東芝なのに、1基も受注できていないわけですから、WH社の企業価値を示す「のれん代」として計上している3500億円は何なのか?という話になります。
インドに売り込もうとする原発
東芝は、国内で原発事業の新規建設が不可能(それどころか、原発の廃炉を進めるかに市民の関心が移っている)であり、海外で原発の新規受注を行おうとしています。そこで目を付けたのは、中国と対立関係にあるインドです。インド政府などと既に話し合いを行っており、インド政府に低金利で日本政府がお金を1兆8千億円貸し付ける契約まで結んでいる段階まで話が進んできました。東芝によると、1基当たりの受注額が20億ドル(2400億円)になるという事で、複数の原発を受注すれば、東芝が復活するキーポイントになるのではないかと言われています。
この原発の売り込みの為に安倍晋三は、2015年12月11日~13日の日程で、臨時国会を開催せずにインドに乗り込んで、原子力協定たるものを結んできました。ついでに武器などの輸出についても話し合っているそうです。日本は、家電業界で中国・韓国に負けていて、「悪魔のビジネス」に染められて行く事になっているようです。
家電部門の競争力の低下
東芝の白物家電部門は、競争力が大幅に低下しており、新しい設備投資も難しい事から、東芝が国内外のすべての工場・株式の売却を決めています。確かに東芝のパソコンだけ見ても、最近は東芝のパソコンは高くて全くランキング上位にあがらなくなりました。過去には、東芝のパソコン、携帯、その他の家電製品もそれなりに売れていたのですが、リーマンショックを前後して東芝の家電製品を見る事はほとんどなくなりました。中国・韓国の家電製品に完全にやられてしまったのです。
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